DID/VCにおけるビジネスモデル

当社はDID/VCを専門とするスタートアップ企業です。
おそらくですが、今現在日本でDID/VC技術を使ったビジネスで一定の収益を稼ぎ出している企業は存在しません。(一定の収益=数億円〜)

この技術を少し調べると「収益をあげづらそうなポイント」がいくつか見えてきて、実際当社も「どうやって稼ぐビジネスモデルなんですか?」と聞かれることがあります。

本記事では、この質問に対する回答をまとめます。(進行中の契約や案件に関しては当然書けないので大枠の話にはなりますが)

*当社は現在、人に対して発行されるVCを取り扱っています。本記事の中では「VC=デジタル証明書」と読み替えていただいても問題ありません。

DID/VCにおけるキャッシュポイント

VCを発行・流通させる基盤を構築したとして、どこでマネタイズするかという話になります。
マネタイズが発生し得る箇所は以下となります。

  1. VCの発行
  2. VCの検証
  3. 技術基盤の構築・提供

考え方①:今お金が流れているところをリプレイスする

一番分かりやすいのは「今お金が流れている領域に入る」ことです。これは上記「マネタイズが発生し得る箇所」で言うと、1(VCの発行)と2(VCの検証)が該当します。

例えば、教育機関は学生証の発行に費用をかけています(プリンターのリース料、印刷会社への発注費用など)
VCを用いてデジタル学生証を発行する際には、これらの商材と並ぶ形で「うちで学生証を発行していただければこんなメリットが・・・」と営業することになります。

他の例でいくと、本人確認サービスとして導入する際には既存の本人確認サービスとの比較になります。(当社をはじめ国内外で複数の企業が、銀行などの顧客情報をVC形式で流通できる仕組みをつくり、それを用いて本人確認を完了させる仕組みを構築しています)
この場合、上記の学生証のように発行シーンではなく検証シーンで稼ぐモデルとなります。

今すでにお金が流れている領域はそこにお金を払う人がいるのが自明な一方で、既存手段との差別化要素を備えている必要があります。(差別化要素は当然小さくてはいけません。後ほど詳述)

考え方②:技術基盤の提供

二つ目の収益ポイントは技術基盤の提供です。
DID/VCを活用したビジネスを構想する事業者に技術基盤やノウハウを有償で提供するというモデルです。

こちらは一つ目のモデルと比べると、基盤提供側が抱えるリスクが低いです。なぜなら出来上がったDID/VCエコシステムの成功可否に関わらず一定の収益が得られるためです。(当然成功に向けて共に汗を流すマインドは必要として)

VCを発行する事業者はエンドユーザーを抱えている必要があるため、直接エンドユーザーを抱えないベンダー等は基本このモデルをとることになります。

ビジネスモデルの成立しずらさ

冒頭で「DID/VCには収益をあげづらそうなポイントがある」と書きましたが、DID/VCを用いたビジネスには以下のような障壁が存在します。(DID/VCを用いたビジネスの成立が難しい=考え方①の営業がうまくいかない、考え方②のような技術基盤の提供先となるユーザー企業が本領域に入ってこない)

既存の仕組みをリプレイスするほどの魅力が出せない 

新規事業の基本ですが、既存手段に対する小さな優位性を示しただけではビジネスは成立しません。

例えばデジタル学生証で言えば、単に発行費用を下げるだけで学校側が導入に踏み切ることは滅多にありません。(より信頼性が高い形で各種証明書を発行できる、などは尚更)
なぜなら、挙げられる懸念点にはキリがなく「それらを加味した上でも導入したい」と思ってもらう必要があるためです。

デジタル学生証における懸念点の例

  • 新たなシステムを導入することへの職員の負担
  • 校内インフラと既存のカード型学生証の連動をどうするか整理する必要あり
  • デジタル学生証の利用が認められていないシーンがある
  • 既存取引先との関係
  • スマホを保有していない生徒への配慮

サービスを営業する上で機能や価格は重要な要素ではありますが、往々にして相手に変化を受け入れてもらうことへのハードルはそれ以上に大きいものです。
これを突破するために必要な要素は挙げればきりがない(セールスの能力、営業先内部への深い理解、キーマンの把握、他システムからのスムーズな移行方式の具備など)ですが、いずれにしても単にプロダクトや技術の力だけで解決するものではありません。

どういうロジックでサービスが普及するのか、DID/VCとは直接関連しない部分も含めて全体戦略を練る必要があります。

鶏と卵問題が起きやすい

これもDID/VCあるあるですが、鶏と卵の問題を突破しないと成り立たないシーンが出てきます。

例えばよく構想される以下のようなビジネスモデル

「採用領域における課題:経歴詐称のリスク、旧態依然とした履歴書や自己PRベースの評価では測れない能力がある➡デジタル証明書で真正な経歴情報や資格情報を流通させ、これらの問題を緩和したい」

このビジネスモデルを成立させるためには、

①デジタル証明書を保有するユーザー
②デジタル証明書をもとに選考を行う事業者

が一定数揃わないといけません。
両者はもう一つの要素が一定数いないとサービスを利用する動機が生まれないためです。

これを突破する方法は、一般的なビジネス論にはなりますが

  • すでにお金が流れている方をおさえる
  • 両者をすでに抱える既存事業者と(双方に益がある形で)組む
  • 両者の間にある情報の非対称性を利用する
  • 大きな初期投資で両者をおさえる

等が存在します。

鶏と卵があるから諦めるというのは粘りが無さすぎますが、最低でも「発行者」「検証者」の二つのステークホルダーを巻き込まないといけないのがビジネスの成立を難しくしています。

公的なアセットの存在

DID/VCはオープンソース化が進んでおり、独自のノウハウや知見を囲い込みづらい側面があります。

また公的な証明書がDID/VCベースのデジタル証明書として発行される流れもあり、民間事業者が発行するVCと同等かそれ以上の利便性・信頼性をもったデジタル証明書が公費で普及するシーンも増えています。

海外のDID/VC企業の稼ぎ方

海外では日本よりも早くDID/VC市場が形成されています。DID/VC領域に強みをもち事業を延ばしている企業のビジネスモデルを並べていきます。

ID.me

アメリカで一億人以上のユーザーを獲得。
軍人や教師、学生といった特定の属性向けのディスカウント情報をまとめるサービスから始まり、現在はオンライン認証サービスを提供。

Yoti

イギリスで累計300億円以上を調達し、郵便局や大手銀行とも共同プロダクトを展開。
本人確認ソリューションの提供(DID/VCを利用しない方式含め)から始まり、現在はデジタルアイデンティティのシステム開発に強みをもつ企業として台頭。

SecureKey Technologies

カナダでユニコーンとなり大手セキュリティ企業に買収された。
デジタルアイデンティティや認証ソリューションの技術基盤の開発に強みをもち、大手銀行や政府と共同で「Verified.Me」というサービスを開発。

Trinsic

アメリカのスタートアップ。
DID/VCの開発キットを提供するほか、複数のデジタルIDウォレットをバインディングしたコンポーネントを開発。

ざっと思いつくところを並べてみましたが、ピュアにDID/VCに関するソリューションのみを提供している事業者はほとんどいない印象です。
セキュリティや認証というより広範な領域で技術的な強みをもっていたり、旧来型の本人確認サービスでも収益を稼ぎつつDID/VCにも取り組んでいる企業が多い印象です。

まとめ

本記事では「DID/VC領域におけるビジネスモデル」についてまとめました。

当社もシード期のスタートアップであり、まだ何も成し遂げてないので偉そうなことは語れませんが、テレアポを始めとするドブ板営業、オープンイノベーション観点でのエンプラ事業者との協議、キャピタリスト観点でのフィードバックなど、試行錯誤しながらインサイトを積み重ねています。

DID/VC技術に関する専門的なプロダクトや知識は前提必要ですが、ビジネスや新規事業の原理原則を乗り越えなければビジネスとして成立しないことは他事業と変わりません。
各ステークホルダーについて深く理解し必要な価値を届け、本領域をハックすることでスタートアップらしい非連続的な圧倒的な成長を実現していきます。


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