世界銀行がASEAN諸国のデジタルID越境利用に向けた準備状況調査を開始

ニュース原文:https://idtechwire.com/world-bank-seeks-asean-readiness-assessment-for-cross-border-digital-id-and-credentials/

世界銀行グループが2025年11月、ASEAN加盟国におけるデジタルアイデンティティとVCの越境利用に関する準備状況評価のため、コンサルティング業務の関心表明要請(RICE)を発表しました。世界銀行グループが「関心表明要請(RICE)」を出したということは、ASEAN域内のデジタルID・VCの相互運用と越境利用を本格的に評価・準備するフェーズに入ったことを意味します。

プロジェクトの概要と目的

今回のプロジェクトの主な目的は、ASEAN加盟国がデジタルIDシステムとVCの国境を越えた相互運用性にどの程度備えているかを評価することにあります。また、今回のプロジェクトの資金は、国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)の総称であり、低・中所得国の政府に対して資本プロジェクトを進めるために融資や助成金を提供する国際金融機関である世界銀行の内部予算、身分証明信託基金(ID4D)から調達されます。同基金は、すべての人に法的・デジタルな身分証を持たせることを目指す世界銀行の「ID4Dプログラム」を支える資金枠です。

対象となるのは東チモールを含む11のASEAN加盟国で、各国のデジタルアイデンティティエコシステムとガバナンス体制の詳細なマッピングと分析が実施される予定です。

注目すべきは、技術面だけでなく、制度的役割、運営モデル、各国のアイデンティティスキームのガバナンス方法まで包括的に評価される点です。これは単なる技術的互換性の確認にとどまらず、持続可能な越境デジタルID基盤の構築を目指していることを示しています。

法制度とverifiable credentialsの課題

プロジェクトの重要な要素として、法的・政策的レビューが挙げられます。各国のデジタルアイデンティティ、電子認証、データ保護、越境データ流通に関連する法律や規制が詳細に検証されます。

現在、ASEAN地域では各国が独自のデジタルID制度を構築していますが、verifiable credentialsの越境認証を支える統一的な法的枠組みはまだ確立されていません。この調査により、相互運用性を妨げる法的ギャップや不整合が明らかになることが期待されます。世界銀行がナイジェリアやインドネシアなど世界各国でデジタルID基盤支援の実績を持つことから、その知見がASEAN地域にも活かされるでしょう。

一方日本では、マイナンバー制度を中心に国内向けのデジタルID基盤は整備されつつあるものの、国際的な相互運用やVCを前提とした法的・技術的枠組みはまだ整っていません。近年はデジタル庁や民間企業による自己主権型ID(SSI)やデジタル証明書の実証が進みつつあるので、今後はASEANなど周辺地域との越境連携を見据えた制度設計が求められます。

ASEAN地域における人材や企業の移動が活発化する中、デジタルアイデンティティの越境相互運用は経済統合の鍵となります。

この世界銀行の調査は、技術標準の統一だけでなく、法制度やガバナンスモデルの調和という包括的アプローチを採用しており、実効性の高い地域デジタルID基盤構築への重要な第一歩と言えるでしょう。今後の調査結果とASEAN各国の政策対応が注目されますね。

参考: World Bank Seeks ASEAN Readiness Assessment for Cross-Border Digital ID and Credentials


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