シンガポール発、デジタル認証が変える国際人材採用の未来
― Affinidiが示す“信頼ベース経済”の新モデル
シンガポールのデジタルID企業 Affinidi が開始したパイロットプログラムが、国際採用の構造そのものを変えようとしています。
この取り組みの中心にあるのは、verifiable credentials(VC:検証可能な資格情報) を用いた、背景調査プロセスのデジタル化です。
Affinidiは、シンガポールの IMDA(情報通信メディア開発庁)や複数の背景調査企業と協力し、国境を越えた人材・資産・貿易の移動を円滑化するための“再利用可能なデジタル証明基盤”の構築を目指しています。
採用における深刻な課題とは
国際採用では、学歴・職歴・資格の照会など、多くの背景調査が必要になります。しかし、現在のプロセスには構造的な問題が存在します。
- 手動確認のため、5~15日かかる
- 審査の遅れが 採用サイクルを停滞 させる
- 企業の 運用コストが増大
- 偽造書類の増加が業界で深刻化
- 求職者は毎回 同じ書類を提出する手間
従来プロセスの“遅さ”と“リスク”は、企業・求職者双方にとって大きな負担でした。
こうした課題に対し、Affinidiは W3C標準のVC(Verifiable Credentials) を活用することで、採用プロセスそのものの再設計に踏み出しました。
VCがもたらす革新
Affinidiのモデルが革新的なのは、背景調査の結果そのものをVCとして発行し、個人がデジタルウォレットで保持できる点にあります。
・検証時間が数週間 → 数分に短縮
・求職者は“一度発行された証明”を繰り返し利用可能
・企業側は即時に真正性を検証できる
・データは本人が所有し、必要な時だけ開示
・改ざん検知が可能な暗号基盤(DID/VC)
従来のように、前職・大学・資格機関へ個別に照会する必要がなくなり、再利用可能なプロフェッショナルプロフィールとして機能します。
Affinidi CEO Glenn Gore 氏はこう述べています。
「私たちは採用を効率化しているだけではなく、信頼に基づくデジタル経済の基盤をつくっている」
つまり、採用DXではなく、“信頼のインフラ化” が本質です。
医療・金融・教育へも広がる応用可能性
Gore氏はさらにこう言及しています。
「インドとシンガポール間の雇用検証で始まったモデルは、医療、金融、教育など幅広い領域に応用できる」
これは、VCが “資格・本人性・属性の証明” を扱える汎用基盤であるためです。
- 医療 → 医師免許、診療資格
- 金融 → KYC、AMLチェック
- 教育 → 学位証明
- 公共サービス → 住民照明・許認可
つまり今回の取り組みは、国際採用を入口として、多分野に広がる相互運用型デジタル証明エコシステムの第一歩といえます。
シンガポール × インドの人材から始まる国際展開
パイロットが最初に対象としているのは、IT人材の往来が活発な「シンガポール × インド」の人材です。
この相互運用モデルは、以下の未来を指し示します。
- 国境を越えた 人材移動の高速化
- 適法性・資格の透明化 による安全な採用
- 企業のバックオフィス負荷の大幅削減
- グローバル企業における 採用リードタイムの短縮
- 国際経済の効率化
Affinidiは、Avvanz、eeCheck、RMIといった主要背景調査プロバイダと連携し、「単発の照会サービス」から「継続的なデジタル検証パートナー」へと業界モデルを転換することも狙っています。
日本企業への影響 ― 「採用DX」ではなく“国際競争力”の論点へ
Affinidiの取り組みはシンガポール主導ですが、アジアの人材市場と深く結びつく日本にとっても他人事ではありません。
① 採用スピードの差が企業競争力を左右する時代へ
海外ではVCによる即時検証が普及し始める中で、日本企業の多くは依然として書類照会に数日〜数週間を要します。
この差は 優秀人材が日本企業ではなく海外企業を選ぶ理由 になり得ます。
② 海外人材から“VCでの提出”が当たり前に
世界の人材がVCベースのプロファイルを使い始めると、日本企業側も「VCを検証する能力」を求められます。従来のPDF前提のATSでは対応しきれなくなる可能性があります。
③ 日本の背景調査インフラの遅れが顕在化する
日本は紙証明や大学ごとの個別発行に依存しています。このままでは 日本だけ証明書の国際互換性が低い状態 になりかねません。
Affinidiの取り組みは、日本企業にとっても採用競争力の再設計を迫るシグナルと言えるでしょう。
まとめ ― デジタル証明が国際人材市場を再設計する
Affinidiの取り組みは、単なる採用プロセスのデジタル化ではなく、
- 個人が自分の資格情報を主体的に管理する時代の到来
- 企業は即時・確実な検証が可能になり、採用スピードが飛躍的に向上
- 国家はデジタル証明基盤を通じて人材流動性を高められる
という“三方よし”の構造を生み出します。
Affinidiが目指す最終地点は、人材・資産・貿易がシームレスに動く“国際経済インフラ”の構築です。
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