OpenID FoundationがEUDIWリソースハブを公開

ニュース原文:https://openid.net/openid-foundation-launches-eudiw-resource-hub/

EUデジタルIDウォレット実装を支える統合ポータル

標準化団体である OpenID Foundation が、欧州デジタルIDウォレット(EUDIW:European Digital Identity Wallet)を実装する開発者・実装者向けの 「EUDIWリソースハブ」 を公開しました。
このハブは、EIDAS 2.0に基づくデジタルIDウォレットの仕様・ツール・試験リソースを一元的に提供するポータルとして設計されています。

なぜEUDIWリソースハブが重要なのか

EUDIWは、EU圏内で相互運用可能なデジタルIDウォレットを実現するための仕組みであり、2024年に成立したeIDAS 2.0規則(European Digital Identity Framework)の中心的な構成要素です。各加盟国はこれに従い、共通仕様のデジタルIDウォレットを提供することが求められています。

リソースハブは、このEUDIWの実装を支援するため、関連する主要仕様とツールを集約したものです。実装を進める開発者が、分散型認証・資格証明の標準規格に基づく開発を行いやすくする狙いがあります。

仕様・ツール・ガイダンスが一堂に

新しいEUDIWリソースハブには次のような主要コンテンツが含まれています

  • OpenID for Verifiable Presentations (OpenID4VP) 1.0 Final
    Verifiable Credentials(VC)の提示・検証に関する仕様
  • OpenID for Verifiable Credential Issuance (OpenID4VCI) 1.0 Final
    VCの発行に関する仕様
  • High Assurance Interoperability Profile (HAIP) 1.0
    高信頼レベルの相互運用性プロファイル
  • オープンソースのテストツール
    HAIP対応の実装を検証するためのテストツール(SD-JWTやmdoc形式に対応)
  • 実装ガイダンスやベストプラクティス
    実運用に向けたサポート資料

これらのツールや仕様は、無料で利用可能であり、OpenID Foundationの公開サーバやローカル環境で実行できます。将来的には 自己認証(self-certification)サービス も提供予定で、公的な仕様適合証明が可能になる見込みです。

EUDIW仕様の検証とグローバル展開

公開された仕様は、2025年に実施された複数回の相互運用イベントで広範にテストされており、安定した実装が可能であることが証明されています。OpenID4VP・OpenID4VCI・HAIPはいずれも実装者向けの最終版として位置付けられており、これらを中核に据えたEUDIW対応ウォレットやサービスの開発が促進される見込みです。

また、OpenID Foundationによれば、現在38の法域がこれらの仕様をデジタルウォレットや資格証明プログラムに採用しており、EU域外でも標準化仕様の採用が進んでいることが示されています。

EUDIWと国際標準化の文脈

EUDIWの仕様選定には、OpenID4VPやOpenID4VCIといったグローバル標準が採用されています。これらは、W3CのVerifiable Credentialsデータモデルと組み合わせることで、属性情報や資格情報を安全に発行・提示・検証できる仕組みを提供します。

欧州委員会が推進するEUDIW全体のアーキテクチャは、データ保護、プライバシー、相互運用性の要件を満たすことを目指しており、OpenID Foundationの仕様はこのアーキテクチャ Reference Framework(ARF)のコア部分として位置付けられています。

まとめ

OpenID Foundationが公開した EUDIWリソースハブ は、European Digital Identity Walletを実装・検証・運用しようとする開発者、政府機関、事業者に向けて、必要な技術情報を一元的に提供する実践的な基盤です。
仕様書、テストツール、相互運用性検証、実装ガイダンスが揃ったことで、EUDIWは「構想段階」から本格的な実装・展開フェーズへと確実に進みつつあります。

EU圏におけるデジタルIDウォレットの導入は、国民・企業・サービスの間で行われてきた本人確認や資格提示の方法を根本から変える可能性を持っています。OpenID Foundationのリソースハブは、その変化を技術面から支える中核インフラであり、EU全体のデジタルIDエコシステム形成を加速させる役割を果たしています。

一方で、この動きはEU域内にとどまるものではありません。EUDIWで採用されている仕様や設計思想は、国際標準に基づいており、今後はEUと取引やサービス連携を行う日本企業にとっても、無視できない実務的前提となる可能性があります。また日本政府にとっても、将来のデジタルID制度設計や国際相互運用性を考える上で、EUDIWは重要な参照モデルとなります。

EUDIWリソースハブの公開は、デジタルアイデンティティが「理論」や「実験」ではなく、現実の制度・ビジネス・社会インフラとして動き始めたことを示す象徴的な出来事だと言えるでしょう。


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