国連CEFACTフォーラムが示した「検証可能な貿易文書」の現在地
ニュース原文:https://tradigi.jp/un-cefact/post-1285/
― 国連CEFACTフォーラムで議論された「検証可能な貿易文書(UNVTD)」とは何か
2025年11月、セネガル・ダカールにて 第44回国連CEFACTフォーラム が開催されました。
国連CEFACT(UN/CEFACT)は、国際貿易や行政手続きの円滑化を目的に、データ標準や業務モデルを策定する国連機関であり、本フォーラムはその活動成果や最新動向が共有される重要な場です。
フォーラムでは、標準と税関データモデルの整合に関する議論に加え、新たに立ち上がったプロジェクト
「国連検証可能貿易文書(UN Verifiable Trade Documents:UNVTD)」
が注目を集めました。
本記事では、このUNVTDを中心に、フォーラムでどのような議論が行われたのかを整理して紹介していきます。
新プロジェクト「UN検証可能貿易文書(UNVTD)」とは
UNVTDは、インボイスや運送状といった貿易文書を、「検証可能なデジタル文書」として国際的に流通させることを目的とした新プロジェクトです。
ここで言う「検証可能」とは、
第三者が、客観的かつ再現可能な手順でデータの真正性を確認できる状態
を、暗号技術によって実現することを意味します。
技術的なアーキテクチャとしては、国連透明性プロトコル(UNTP)と同様の方式が採用され、
Verifiable Credentials(VC) が中核技術として位置づけられています。
説明の中ではVCを活用することで、
- 低コストでスケーラブルな実装
- 国境を越えたデータの相互運用
- 人と機械の双方が読み取れる構造
を同時に実現できる点が強調されました。
VCは「ブロックチェーン以外」の選択肢でもある
フォーラムでは、VCが UNCITRAL(国連国際商取引法委員会) の
電子的移転可能記録モデル法(MLETR) における実装手段としても有効である事が紹介されました。
MLETRは、電子的な記録を紙の貿易書類と同等に扱うための法的枠組みですが、その実装は必ずしもブロックチェーンに限定されていません。
VCは、こうした移転可能記録を支える為の、もう一つの実装モデルとして位置づけられています。
運送状、商業インボイス、製品パスポートといった文書がVC化され、
「検証可能な貿易文書(VTD)」として確立されれば、
- 検証コスト削減による資金調達の円滑化
- 欧州森林破壊防止規則(EUDR)対応の市場アクセス
- 税関による偽造品・密輸対策の高度化
- 信頼度の高い事業者へのインセンティブ設計
といった新たな価値創出が期待されると説明されました。
「信頼基盤」の欠如がもたらした課題
ケーススタディとして、英国の事例も共有されています。
英国では2023年に 電子取引文書法(Electronic Trade Documents Act) が施行され、電子貿易文書が法的に認められました。
しかし実際には、相互運用可能で強固なデジタル信頼基盤(digital trust layer)が不足していたため、十分に活用されなかったという課題が指摘されました。
この反省を踏まえて、UNVTDにおいては
VCによる 暗号学的な保証(cryptographic assurance) が、信頼基盤として重要な役割を果たすことが期待されています。
貿易デジタル化におけるパラダイムシフト
フォーラムでは、貿易デジタル化の考え方そのものが変わりつつある点も強調されました。
従来の焦点が
「プラットフォーム同士をどう接続するか」
であったのに対し、今後は
「信頼できるデータを、誰がどこでどう使えるか」
に移っていく可能性が示されています。
フォーラムの中ではインドの事例においてAIを補助的に活用していることも挙げられていました。
- 輸入要件データベースが網羅的でない
- 多言語対応による翻訳工数が大きい
- 最近になってAIを活用した翻訳で改善を試みている
という説明が入っています。
上記のようなAIを活用した翻訳や審査、リスク分析の導入はさまざまな業界で進んでいることでしょう。そのような状況下では、
「そのデータが本物であるか」 を機械的に検証できることが、ますます重要になります。
VCは、
- 人と機械の双方が理解できる
- 検証によって偽造を防げる
という特性を持つため、信頼性の高いデータ交換を支える基盤技術として評価されています。
分散型ID(DID)との関係
MLETRに基づく電子的移転可能記録には、
- デジタル署名
- 署名者の身元を確認できるDIDとの紐付け
が必要である点も説明されました。
典型例として挙げられたのは、パスポートやナンバープレートです。
貿易分野では、税関が 認定事業者(AEO)証明 を、輸出者の分散型IDに対してVCとして発行する、といったシナリオが想定されています。
おわりに
第44回国連CEFACTフォーラムでの議論からは、
Verifiable Credentials(VC)が単なる技術トレンドではなく、国際貿易における「信頼の前提」を再設計する基盤技術として位置づけられ始めていることが明確に読み取れます。
UNVTDが示しているのは、「文書をデジタル化すること」そのものではなく
データが国境を越えて流通する際に、誰が・どの立場で・どの責任を持って検証できるのかという構造を、国際標準として整理しようとする動きです。
Receptではこれまで、DID/VCを単なる技術トレンドとして捉えるのではなく、
企業の業務や制度にどのように組み込み、実際に使われる形にするかという観点から、事業設計・業務設計・実装支援まで一体で支援してきました。
DID/VCとAIを組み合わせた活用についてもご相談をいただいています。
その立場から見ると、UNVTDのような国際機関主導の取り組みが進んでいること自体が、
VCが“将来の選択肢”ではなく、“前提条件になりつつある技術”へと移行している兆候だと捉えています。
今後、国際貿易や金融、規制対応の現場では、
「どのシステムを使っているか」よりも、
「信頼できるデータを、第三者が即座に検証できる状態にあるか」 が問われる局面が、企業の競争力や市場アクセスを左右する局面が増えていくでしょう。
VCと分散型IDは、その中核を担う技術要素の一つとして
今後も国際機関、各国政府、企業の実務と制度設計の中で、現実的なテーマとして議論され続けていくでしょう。
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