スマートコントラクトは、誰の責任で動いているのか?
ニュース原文:https://arxiv.org/html/2601.13903v1
arXiv論文とは
ニュース原文のarXiv(アーカイブ)は、研究者が査読前の論文を公開するためのプレプリントサーバーです。
公式な国際標準や政府文書ではありませんが、研究者コミュニティでの議論のたたき台として使われることが多く、「次に何が設計論点になりそうか」を知るには有用な情報源です。
今回取り上げる論文(arXiv:2601.13903v1)も、その位置づけにあります。
今回の論文は、スマートコントラクトを制度の中でどう扱えるのかという問いに対して、
VC(Verifiable Credential)を含む既存の枠組みを使った一つの整理を提示しています。
その考え方が興味深かったため、本記事で解説していきます。
スマートコントラクトは、なぜ制度の前提に立てていないのか
パブリックブロックチェーン上では、スマートコントラクトが自律的に取引を実行します。
署名は正しく、コードは仕様どおりに動き、資産移転も成立します。
また、技術的には、それで十分に機能しているように見えます。
しかし制度や規制の視点に立つと、別の問題が立ち上がります。
一体、その行為は、誰の責任として扱われるのか。
問題が起きたとき、どの法的主体が説明を行い、必要な対応を行うのか。
この論文が扱っているのは、性能や利便性ではなく
スマートコントラクトを制度の中でどう位置づけ直せるか、という点です。
スマートコントラクトの行為は、誰の責任として扱われるのか
論文の Scenario and Setup では、あえて極端な状況が想定されています。
パブリックブロックチェーン上で、事前の契約関係やビジネス上の信頼を前提とせず
スマートコントラクト同士が直接取引を行う状況です。
この環境では、技術的には取引は成立します。
署名は正しく、コードも仕様どおりに実行されます。
しかし、従来の金融や契約の枠組みでは、
この取引をどの法的主体の行為として扱うのかを説明できません。
この論文が可視化しているのは、スマートコントラクトが自律的に動くことではなく
その行為を制度の言葉で位置づけられないという構造的な問題です。
「誰が動かしたか」ではなく「誰の責任か」を問う理由
従来のパブリックブロックチェーンでは、スマートコントラクトの責任主体は、暗黙の了解としてオフチェーンに置かれてきました。
ホワイトペーパーやWebサイト、利用規約を通じて、人が判断することが前提とされてきたからです。
しかしこの前提は、オープンな環境で取引が自動化されるほど成立しなくなります。
第三者がその都度説明文書を確認しなければならない設計では、制度が求める客観性や即時性を満たせません。
この論文が示しているのは、スマートコントラクトを単なるコードとして扱ったままでは
制度との接続が人の説明に依存してしまうという設計上の限界についてです。
だからこそ、責任主体を後付けで説明するのではなく、スマートコントラクトそのものを
責任が帰属する単位として扱う必要があると整理されています。
なぜ新しい信頼モデルを作らず、制度を拡張したのか
本論文で示されている選択は、
ブロックチェーン固有の新しい信頼モデルを構築することではありません。
すでに制度の中で機能している信頼の単位を、
スマートコントラクトという実行単位に拡張する、というものです。
独自の仕組みを作ること自体は技術的に可能です。
しかしその場合、制度や規制の側から見て、なぜそれを信頼してよいのかを説明することが難しくなります。
制度が求めているのは、取引が正しく実行されたかどうかではなく、
その行為をどの法的主体の責任として扱えるかを、第三者が検証できることです。

これまで制度は、ある行為を「どの法人の意思決定として行われたのか」を単位に
責任の所在を整理してきました。
本論文が示しているのは、この考え方をスマートコントラクトの実行単位にまで下ろし
「この法人の責任範囲で動いている、このコントラクトが実行した行為である」
という関係を、検証可能な形で結び直すという設計です。
この検証可能性を支える手段として想定されているのがVCです。
VCは属性を証明するためではなく、スマートコントラクトの行為が
どの法的主体の責任範囲で行われたのかという関係を、
第三者が後から確認できる形で残すために用いられています。
責任主体を新しく定義し直すのではなく、制度がすでに理解できる責任の考え方を
コードの実行単位まで具体化していく。
その点に、この設計の意義があります。
スマートコントラクトは、制度の中で評価できる存在になれるか
この論文が焦点を当てているのは、スマートコントラクトの行為を
誰の責任として第三者が検証できるかという点です。
公開鍵と署名だけではこの問いに答えられず、
その結果、スマートコントラクトは制度の外側に置かれてきました。
本論文は、そのような状況の中で、新しい信頼モデルを作るのではなく
既存の制度が受け入れている信頼の単位を拡張することで、
スマートコントラクトを制度の中で評価できる対象にしようとしています。
この点に答えられるかどうかが、今後スマートコントラクトを
社会インフラとして扱えるかどうかを左右することになるでしょう。
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