NISTがオンライン金融で示す、mDLを起点としたVC導入の考え方
mDLとは
mDL(mobile Driver’s License)は、運転免許証をデジタルで提示できる仕組みで、発行主体や検証方法が制度的に整理されたデジタルクレデンシャルです。
技術的には、mDLはVC(Verifiable Credentials)の枠組みに基づいて実装されており、必要な情報だけを検証可能な形で扱える点に特徴があります。
詳しくはこちらの記事で解説しているので興味がある方は読んでみてください。
本記事では、このmDLを起点に、VCがオンライン金融でどのように制度に組み込まれようとしているのかを整理します。
NISTとは
NIST(米国国立標準技術研究所)は、米国政府に属する標準策定機関です。
サイバーセキュリティやデジタルID分野において、政府調達や民間実装の前提となる技術ガイドラインを策定してきました。
近年は、技術仕様の整備にとどまらず、デジタル認証や本人確認を巡る制度設計そのものにも深く関与しています。今回公表されたプレイブックも、その延長線上に位置づけられます。
なぜNISTはmDLを起点にしたのか
NISTが今回のプレイブックで起点としているのは、mDLです。
これは、mDLが新しい技術だからではありません。すでに制度の中で、発行主体、責任の所在、法的位置づけが整理されている、数少ないデジタルクレデンシャルだからです。
対面での利用や物理的な提示については、TSAなどを通じて一定の整理が進んでいます。一方、オンラインで本人確認や認証を行う場面では、利便性と規制要件をどう両立させるかについて、各事業者が手探りで対応してきました。

mDLは、州政府という明確な発行主体を持ち、身分証としての法的裏付けも確立されています。そのため、「誰が発行した情報に基づいて、どの判断を行ったのか」という関係を、制度の言葉で説明しやすいという特徴があります。
NISTがmDLを起点に据えた理由は、デジタルIDの理想形を示すためではありません。既存の制度に組み込まれたクレデンシャルを用いて、オンライン環境でも責任や説明可能性を保ったまま業務フローを再構成できるかを検証するためです。
なぜNISTは金融ユースケースに行き着いたのか
NISTが重視しているのは、デジタルクレデンシャルをオンラインで利用した際に、制度上どの論点が顕在化するのかを明らかにすることです。
この観点に立つと、mDLをオンラインで利用する際の課題が最も明確に表れるのが、金融機関の本人確認や口座開設といったユースケースでした。
金融分野では、本人確認ができたかどうかだけでなく、
どの発行主体に基づいて、どの判断を行ったのかを、事後的に第三者へ説明できることが求められます。
NISTが金融を選んだのは、金融が特別だからではありません。
mDLをオンラインで制度に耐える形で使おうとした結果、
最も厳しい条件がそろう検証環境として金融に行き着いた、という整理になります。
NISTのプレイブックが扱っているのは「技術」ではなく「判断の構造」
NISTのプレイブックが整理しようとしているのは、
デジタルクレデンシャルをどの技術で実装するかではありません。
焦点になっているのは、オンライン環境で本人確認や認証を行った際に、
その判断を誰の行為として扱えるのか、
そしてどの根拠に基づく判断だったのかを、後から検証できるかという点です。
オンラインでの本人確認では、「確認できたかどうか」だけでは制度要件を満たしません。
どの発行主体の情報を用い、どの責任のもとで判断が行われたのかが、
第三者に説明できる形で残っている必要があります。
NISTのプレイブックは、この判断の帰属関係を整理するために
VCやmDLといったデジタルクレデンシャルを、
単なる本人確認手段ではなく、判断の構造を表現するための前提として位置づけています。
金融ユースケースで想定されているVCの役割
NISTのプレイブックにおいてVCが担うのは、
属性を保持することではなく、判断の根拠と帰属を残すことです。
金融機関は、実年齢や住所全文、身分証の写しを継続的に保管する必要はありません。
「条件を満たすと判断した」という結果と、
その判断がどの発行主体に基づくものかを扱えば足ります。
VCは判断を自動化したり代替したりするものではなく、
その判断をどの主体の責任として制度上扱えるかを明確にするための記録単位として位置づけられています。
NISTのプレイブックは、mDLを起点に、
こうしたVCの役割が金融の実務や規制要件の中でどこまで成立するのかを、具体的な形で検証しようとするものです。
具体的には、mDLで初期の本人確認を行い、その判断結果をVCとして検証可能に残し、日常的な認証はパスキーで軽量に行うという役割分担が想定されています。
なぜ「プレイブック」という形が選ばれたのか
金融機関の実務は、法令、内部規程、既存システムが複雑に絡み合っており、画一的な技術仕様をそのまま適用できるケースは限られます。
そのためNISTは、単一の正解を示すのではなく、具体的なユースケースを前提に、制度に耐える設計パターンを整理する「プレイブック」という形式を選びました。
正解を一つに定めるのではなく、実務の中で判断を成立させるための考え方を共有することが目的とされています。
Receptメディアでも、VCは仕様そのものよりも、それをどう運用し、どの責任構造に置くかが重要と解説していますので、良かったら過去の記事も読んでみてください。
この動きは金融以外の分野へ何を示しているのか
金融分野で成立する設計は、行政手続きや公共サービス、規制産業全般にも応用可能です。
共通しているのは、「本人であるか」よりも、どの主体が、どの判断を、どの責任で行ったのかを説明できるかが問われる点です。
NISTの取り組みは、VCを用いた本人確認にとどまらず、制度が評価できる形でデジタルIDを使うための設計原則を示そうとする試みだと言えるでしょう。
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