オーストラリアで始まった「デジタル出生証明書」試行
ニュース原文:https://www.insidestategovernment.com.au/digital-birth-certificate-trial-delivered-for-victoria/
ビクトリア州で始まった「デジタル出生証明書」試行とは何か
オーストラリア・ビクトリア州では、出生証明書をデジタルで発行・利用できる仕組みの試行が始まっています。
この取り組みは、紙の証明書を単に電子化するものではなく、行政手続きにおける「証明」のあり方そのものを見直す動きとして注目されています。
出生証明書は、医療、教育、福祉、行政サービスなど、人生の初期段階から多くの場面で求められる基礎的な公的証明です。
そのため、この分野のデジタル化は、一部の手続きにとどまらず、社会インフラ全体に影響を及ぼす可能性があります。
取り組みの概要
Service Victoriaアプリでの提供
今回の試行では、州政府が提供するService Victoriaアプリのデジタルウォレット機能を通じて、保護者がスマートフォン上で出生証明書を閲覧・提示できる仕組みが採用されています。
紙の証明書を保管・提出する代わりに、必要な場面でアプリ上の証明書を提示できる点が特徴です。
対象は新生児の保護者で、まずは限定的な範囲で運用しながら、実務上の使い勝手や制度面での課題を検証する位置づけとされています。
Service Victoria とは
Service Victoriaはビクトリア州政府が提供する、公式の行政サービス統合アプリです。
ビクトリア州政府が運営する公式のデジタルサービス基盤で、
住民が行政手続きをオンラインで完結させるための「入口」として機能しています。
運転免許、各種申請、通知の受け取りなど、複数の州政府サービスがこのアプリを通じて提供されており、本人確認やアクセス管理も州政府の基準に基づいて行われます。
技術的には何が使われているのか
現時点で公開されている情報を見る限り、
この試行において ブロックチェーンやDID、VC(Verifiable Credentials)といった技術が明示的に採用されているとは示されていません。
むしろ、オーストラリア政府がすでに運用しているデジタルサービス基盤を前提に、
認証やアクセス制御を組み合わせた構成になっていると考えられます。
州政府主導であることの意味
出生証明は、市町村や民間事業者だけで完結するものではありません。
発行、保管、利用の各段階において、法的責任を伴います。そのため、州政府レベルでの関与が不可欠です。
今回の実証が州政府主導で行われている点は重要です。
民間主導のID実証とは異なり、制度や法的責任を前提にした検証が行われているからです。
他分野への波及を見据えた重要な検証例
出生証明は、公的証明の中でも最も厳しい要件を持つものの一つです。
ここで制度として成立するデジタル設計が示されれば、学歴証明や婚姻証明、資格証明といった他の公的証明にも応用が可能になります。
その意味で、今回の試行は、デジタル公的証明全体の今後を占う重要な取り組みだと言えるでしょう。
制度のデジタル化が示す次の論点
今後の論点は、「デジタルにするかどうか」ではありません。
どこまでをデジタルで扱い、どこを制度として残すのか。その線引きをどう設計するかです。
ビクトリア州のデジタル出生証明書の実証は、
制度がデジタルに耐えうる範囲と、そうでない部分を可視化する試みとして読むことができます。
出生証明という最も基礎的な証明を題材にすることで、
責任、説明可能性、是正の仕組みといった制度の前提条件が浮かび上がってきます。
今後、各国で進むデジタルIDや公的証明の議論において、
この実証が示した論点は、避けて通れないものになっていくはずです。

