欧州のBusiness Walletは何を変えようとしているのか

ニュース原文:https://www.finextra.com/blogposting/30945/european-business-wallets-enabling-safe-and-efficient-use-of-data-spaces-and-gaia-x?utm_source=

データスペースとGaia-Xを支える企業識別の標準化

欧州で議論が進む「Business Wallet(企業向けデジタルウォレット)」は、単なる企業用デジタルIDではありません。データスペースやGaia-Xに参加する企業が、自らの法的実体や資格情報を検証可能な形で提示するための共通基盤です。

背景にあるのは、データ共有の拡大です。モビリティ、エネルギー、金融など各分野でデータスペースの整備が進む一方、参加企業の識別や資格確認は依然として個別対応に依存しています。書類提出やPDF確認といった手続きが残り、越境参加のコストを押し上げています。

Business Walletは、この部分を標準化しようとする取り組みです。

企業識別を「名乗る」から「証明する」へ

Business Walletには、法的実体識別子(LEIやEUID)、代表権限、各種認可情報などが検証可能な形式で格納されます。これらはVC(Verifiable Credentials)として保持され、提示時に暗号的に検証できます。

重要なのは、「企業を名乗る」ことと「企業として証明される」ことを分離する点です。データスペース参加時に、紙やPDFではなく検証可能な証明を提示できるため、参加手続きの自動化や確認プロセスの簡素化が可能になります。

Business Walletは、企業識別を属性データではなく、検証可能な証明として扱う枠組みです。

eIDAS 2.0とGaia-Xの接点

Business Walletは、改正eIDAS規則(いわゆるeIDAS 2.0)の文脈の中で議論されています。eIDASはEU域内での電子識別と信頼サービスの法的枠組みを定める規則です。

Gaia-Xは、分散型で相互運用可能な欧州データインフラを構築する取り組みです。その中でBusiness Walletは、企業の識別と属性証明を担う層として位置づけられます。

Gaia-Xや各種データスペースは、Business Walletを前提にアクセス制御や契約関係を設計できます。つまり、Business Walletは「データを運ぶ仕組み」ではなく、「データを共有できる主体を証明する仕組み」です。

データスペースにおける実務上の変化

Business Walletが整備されれば、データスペース参加時の参加手続きは大きく変わります。

企業は必要な属性だけを選択的に提示し、データスペース側はそれを機械的に検証できます。これにより、参加審査やコンプライアンス確認の標準化が進みます。

また、越境参加においても、同一の識別・証明モデルを用いることで再提出や再検証の負担が軽減されます。特に複数のデータスペースに参加する企業にとっては、固定的な手続きコストの削減につながります。

Business Walletは“共通ルール”になれるか

Business Walletは目的そのものではありません。企業が本当に必要としているのは、データスペースやGaia-Xに参加する際に、自社を確実に証明できることです。

問題は、その証明方法が統一されていない点にあります。共通ルールがなければ、企業は参加先ごとに書類提出や確認対応を求められます。確認作業は複雑になり、時間もコストもかかります。

Business Walletの議論は、新しいツールの導入可否ではなく、企業をどう証明するのか、その方法を標準として揃えられるかという問いなのです。
データ共有が前提となる時代においては、識別の設計そのものが競争条件になるでしょう。


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