EU、企業向けデジタルウォレット導入へ―年間15兆円超の経済効果を見込む

ニュース原文:https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/commission-proposes-european-business-wallets-simplify-business-operations-and-enhance

欧州委員会は2025年11月19日、EU域内の企業活動を大幅に簡素化する「欧州ビジネスウォレット」の導入を提案しました。この革新的な取り組みは、企業の本人確認、データ交換、文書管理をデジタル化することで、年間少なくとも1,500億ユーロ(約15兆円以上)の経済効果を生み出すと期待されています。特に中小企業にとって、業務時間の3~5割を占める事務作業の削減が実現する可能性があり、欧州企業の競争力強化に直結する施策として注目されています。

欧州ビジネスウォレットの主要機能

欧州ビジネスウォレットは、企業が日常的に行う業務をデジタル空間で完結できるよう設計されています。具体的には、企業固有の永続的な識別子による認証、文書への電子署名やタイムスタンプ、各種ライセンスや証明書などのVerifiable Credentials(VC)の安全な作成・保管・交換が可能になります。

企業はデジタルで次のことが可能になります。

  • 一意かつ永続的な識別子で識別および認証する
  • 文書に署名、タイムスタンプ、または封印する
  • ライセンス、証明書、許可証などの検証済みデジタル文書を安全に作成、保管、交換します。
  • EU全体の顧客、サプライヤー、ビジネスパートナー、行政機関とデジタルで安全かつ効率的にコミュニケーションをとる

これらの機能は対面や紙媒体での手続きと法的に同等の効力を持つため、企業は物理的な制約から解放されます。

中小企業と国境を越えたビジネスへの恩恵

この取り組みで特に重要なのは、EU企業の99%を占める中小企業への影響です。現状、中小企業は業務時間の30~50%を事務作業に費やしていますが、ビジネスウォレットの導入により、この負担が大幅に軽減されます。

また、国境を越えたビジネス展開における障壁も低減されます。技術的にはEUデジタルIDウォレットのアーキテクチャをベースとしており、クラウドベースの相互運用可能なソリューションとして、企業規模や所在地を問わず活用できます。コンプライアンス証明書などのVCを統一環境で管理できることで、各国の規制対応も自動化・簡素化されます。

背景について

マリオ・ドラギ財務相の報告書「欧州の競争力の未来」で指摘されているように、2024年には欧州は事務負担という課題に直面し、中小企業の55%がこれを大きな障害と認識しています。現在、企業は手作業によるコンプライアンス業務に過剰な時間とリソースを費やしており、中小企業の場合、なんと売上高の最大2.5%に上ります。事務負担を軽減できる可能性のある対策として、企業間取引(B2B)および企業対政府取引(B2G)におけるチェックのデジタル化と簡素化の推進など、いくつかの対策が挙げられており、単一市場における経済事業者にとってこれらの障壁を取り除く上で、欧州ビジネスウォレットの重要性が強調されています。

欧州ビジネスウォレットはEU域内貿易と投資を阻害する既存の障壁を削減し、中小企業の事業運営と事業拡大を支援し、デジタル化を加速させることで企業を支援していくでしょう。

欧州ビジネスウォレットは、単なるデジタル化ツールではなく、EU単一市場の潜在力を最大限に引き出す戦略的施策です。日本企業もEU市場で活動する際には、この新しいデジタルインフラへの対応が不可欠となるでしょう。デジタル証明書の標準化と相互運用性の実現は、グローバルビジネスの未来像を示唆しており、今後の展開が注目されます。

参考: Commission proposes European Business Wallets to simplify business operations and enhance competitiveness across the EU


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