Web3エコノミーとWeb3技術は別ものである

「Web3領域での新規事業プロジェクト」が経営会議で発表される。発表の締めくくりはこうだ。
──────このプロジェクトは500兆円の巨大なWeb3市場に参入する第一歩です
一般に「Web3の市場規模」と呼んだ際、出てくる市場規模はまちまちだ。これはどこからどこまでがWeb3に括られるのかという境が明確ではないことに起因する。(Web3事業の説明資料に暗号資産の時価総額が掲載されているシーンも目にする)
Web3市場規模に関する市場予測データ
・Mordor Intelligence: 2025年の34.7億ドルから、2030年には414.5億ドルに達すると予測 (CAGR 45.15%)
・Grand View Research: 2023年の22.5億ドルから、2030年には335.3億ドルに達すると予測 (CAGR 49.3%)
・Precedence Research: 2025年の46.2億ドルから、2034年には997.5億ドルに達すると予測 (CAGR 41.18%)・暗号資産の時価総額:500兆円規模(2025/11/7時点)
もちろんこれらの統計値が嘘偽りであるとは言っていない。問題は「Web3技術を活用した取り組み≠Web3エコノミーへの進出」ではないということだ。
「エコノミーと技術は違う」
Web3技術をベースに構築されたアプリケーションはたくさんある。ブロックチェーンゲーム、NFTマーケットプレイス、分散型金融サービス、etc。これらのサービスを日常的に利用したり、SNS上でコミュニティを形成する人は少なくない。(特に海外では)
暗号資産が金融資産に立派な仲間入りを果たした今、投資家や企業、個人がビットコインやイーサリアムを「デジタルゴールド・デジタルオイル」として保有したり、それらを分散型金融サービスで運用するシーンも増えている。
そこには莫大なエコノミーが形成されており、前述した数百億ドル規模に達するのもうなずける。

ただし、多くのエンタープライズ企業の取り組みはこのエコノミーと全くつながっていない。
分かりやすい例として、例えば自社で商標権をもっている画像や物理商品にNFTを紐づけて販売したとする。これは旧来のデジタルマーケティングの範疇で行われている取り組みであり、Web3エコノミーの市場規模と絡めるのは無理があるというものだ。
ステーブルコインでBtoB取引を効率化する場合であれば、ステーブルコインを手にした企業が暗号資産の売買に乗り出さない限り「取引規模の上限=既存のBtoB取引市場」となる。
Web3エコノミーとつながっているのが良い悪いという話ではなく、「事実としてつながっていない」のだ。
示唆
Web3技術ならではの提供価値・実現できる未来はある。弊社もDID/VC(分散型ID/検証可能なデジタル証明書)の技術基盤や活用支援をエンタープライズ企業に提供しているし、人生をかける価値がある領域だと思いサラリーマンを辞めている。
「この技術で自社の事業をどうエンハンスできるのか」を議論する際に、Web3エコノミーの市場規模や、もっと言うとWeb3エコノミーならではのユーザー体験を持ち出す必要はない。後者は「ウォレットをユーザーが意識しなくてもいい」といったメリットが該当する。(鍵をユーザー完全責任のもとで管理させない、というのはこれまでも当たり前だったのだから)
Web3エコノミー向けに開発されるプロダクトと、エンタープライズ企業がWeb3技術を活用するために開発されるそれは前提が大きく異なる。
事業に関係する要素を徹底的に議論することこそが重要ではないだろうか。
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