VCとNFTの違い

VC(Verfiable Credentials)とNFT(Non Fungible Token)の違いはどこにあるのか?という質問をたまにいただきます。

どちらも「ユーザーがウォレットで管理するデジタルデータである点」+「PMFした実ユースケースが出ていない点」が共通しており、イメージしづらいところかもしれません。

私は前職でNFT(クリプト)周りを2年ほどやっており、ここ1年はVCの専業ベンチャーで働いているので、この質問に対する回答はある程度整理できています。
それではいきましょう。

NFTとは

NFTはノンファンジブルな(代替不可能な)トークンです。
トークンとは「所有者が何かしらの権利を有していることを示すデジタルデータ」です。

例えばデジタルアートNFTであれば「そのアートに関する何かしらの権利」、RWA(Real World Asset=実世界のコトモノ)系の不動産NFTであれば「その不動産価値の1/〇を有する権利」を指しているわけです。

平たく表現するとNFTは「権利証」です。

何がすごいのか?

NFTを用いることで金流と商流が融合し移転記録が自動的に記録されます。

モノや権利が売れて金銭授受が発生した場合、最低でも以下手続きが発生します。

  1. AさんがBさんにモノや権利を譲渡
  2. 上記1を確認したらBさんがAさんに金銭を支払い(1,2は逆の場合もある)
  3. 権利であれば上記の移転記録を何かしらの帳簿やデータベースに記録

上記だけでも心配ごとは満載で

  • 先にモノや権利を渡してお金が支払われなければどうするのか(大体はこのリスクを解決するために第三者やプラットフォームを介して取引が行われ、マージンを抜かれる)
  • 権利の移転記録はどこにどのように記録するのか?そのルールは誰が決めて、両者が信用できるものなのか?

といった懸念が浮かびます。
各プロセスや単発の課題を解決する優れたツールや仕組みはあるものの、だいたいサイロ化しておりつなげるのも一苦労です。

一方NFTでは、NFTが移転する方向と逆向きに暗号資産(FT=Fungible Token)が流れ、その移転記録がブロックチェーン上に残ります。
取引に関連する個別のカスタマイズが入る場合にも、スマートコントラクトと呼ばれる仕組みを使ってシステム的にスマートに解決できます。

抽象化すると、金流が発生するネットワークと権利移転が発生するネットワークが同一(どちらもブロックチェーンネットワーク上で行われる)であるために従来の課題や手間を解決できているわけです。

VCとは

VCはヴァリファイアブルな(検証可能な)クレデンシャルです。クレデンシャルとは「資格情報・認証情報の総称」です。

VCは第三者による検証シーンがあるクレデンシャルに適用されることで真価を発揮するため、ヒトに対して発行される場合には「本人確認用の証明書」や「経歴情報を示す証明書」、モノに対して発行される場合には「サプライチェーンにおける流通履歴証明書」などが代表的です。

何がすごいのか

VCは証明書の信頼性や利便性を高めるための優れた特徴が組み込まれています。

例えば以下のような特徴・性質が挙げられます。

  • ユーザーのデバイスに保存されてオフライン環境でも利用できる仕様
  • セレクティブディスクロージャーと呼ばれる、項目単位で外部に提出できる性質
  • 証明書の真正性を確認する際に、証明書の発行元に問い合わせなくても検証が可能な仕組み

無理にNFTと比べる必要もありませんが、NFTと比べるとだいぶ認証や資格情報確認に特化した(金流と結びついていない=ビジネス色の弱い)技術ですので、VC単独で画期的なビジネスを生み出すという類のものではないと思います。

別物なのに混濁される理由

さて、このように見るとNFTとVCはそもそもの想定用途が異なる技術で、混濁されるような類のものではないと思います。

ではなぜ混濁されるのか。これは混濁してしまっている人の知識不足だけに責を帰せるのは不条理で、事業者側の問題もあると思います。それは「事業者のスケベ心」とも呼べる問題です。

スケベ心問題

技術的な特性が特段マッチしていない領域にビジネスチャンス拡大とばかりに飛び込んでしまう。(さも関連する領域であるかのように誇張して発信してしまう。)新興技術だとよくあることです。

例えばNFTは移転できないSBT(Soul Bound Token)という規格があり、これを証明書のように使うことができます。移転が発生しない=金流との接続から切り離されてしまうため、正直NFTの規格を利用しているメリットはだいぶ薄れてしまいます。(逆に金流から切り離したくて使うケースもある)

SBTで証明書を発行するのであれば、VCとして発行したほうがいいです。VCは高度化したデジタル社会に耐えうるクレデンシャルとして整備が進んでおり、標準仕様の策定も着々と進んでいるためです。
(そもそもブロックチェーンに書き込むとデータが公開されてしまうため、パーソナルデータは書き込めないという特徴もあります。頑張ればブロックチェーン上のデータに閲覧制御をかけたり選択的開示のような動きもさせられますが、結局それなら安定した仕様が存在するVCでいいとなります。)

もちろん逆のことはVCにも言えて、点々流通し得る権利や出口がマーケティング的な使い方であればVCよりもNFTの方が技術的特性としてマッチしていますし、そのための既存ツールも整備されています。
VCはまだユースケースが少なく様々な用途への拡張は研究されるべき(当社も色々頭をひねっている)ですが、新たな使い道ではほぼ必ず「Why VC?」が出てくるのでここは領域の選り分けが必要だと思います。

まとめ

今回はよくある質問にご回答しました。
両者はそもそも技術として別物ですが、今回はビジネス側の視点で整理しています。

どっちが優れている技術なのか?的な質問はナンセンスで、回答は「用途とユースケースによる」としか言いようがありません。それぞれ異なる領域で革新を起こし得る技術ですし、私はどちらの技術にも同じレベルで期待を抱いています。

当社は「すぐれた基礎技術にフォーカスし、だれもが使うサービスにアレンジする」というビジョンを掲げており、まずはVCという技術にフォーカスしこの市場を席巻すべく奮闘しています。
NFTもこのビジョンをもとにフォーカスし得る(⇒ポテンシャルが解放されきっていない)技術だと思いますので、また関わっていきたいです。