【2026/12】eIDAS 2.0の今後のスケジュール

ニュース原文:https://www.signaturit.com/blog/eidas-2-0-compliance-deadlines-and-steps-for-companies/

― デジタルアイデンティティの新時代はEUから始まる

欧州連合(EU)におけるデジタルアイデンティティとトラストサービスの規制枠組みが、現在大きな転換点を迎えています。

eIDAS 2.0はEU域内の制度改正ではあるものの、EU市場で事業を展開する日本企業にとっても無視できない重要な動きです。本記事では、企業が知っておくべきeIDAS 2.0の概要、対応が求められる時期、そして実務的な準備ステップについて解説します。

eIDAS 2.0とは何か

eIDAS 2.0は、EUの電子署名・電子認証・トラストサービス規制を大幅に改正し、EU全加盟国共通で利用できる「European Digital Identity Wallet(EUDIW)」の導入を中核に据えた制度です。
EU市民は、公的身分証や各種資格情報をデジタルで管理し、国境を越えて本人確認や電子手続きを行えるようになります。
本質は、「EU全体を一つのデジタル本人確認圏に統合する制度」である点にあります。


なぜeIDAS 2.0が日本企業にとっても重要なのか

eIDAS 2.0はEUの制度であり、日本国内のマイナンバー制度や日本法に直接適用されるものではありません。
しかしEUは、GDPRやAI Actのように「EUの規制が国際標準になる構造」を繰り返し作ってきました。
eIDAS 2.0も同様に、

  • EU向けにSaaS・EC・Fintech・本人確認・電子契約を提供する日本企業
  • EU企業と電子契約、本人確認、データ連携を行う企業

にとっては、“対応していないと事業が成立しない”前提条件になる可能性が極めて高い制度です。


企業が知るべき重要な期限

― 対応の山場は2026年〜2027年

eIDAS 2.0はすでに政治合意が成立しており、今後は次のようなスケジュールで進むと見込まれています。

  • 2025年前後:詳細な技術仕様・実装ガイドラインの確定
  • 2026年〜2027年:各国でEUDIWが提供開始、本格運用フェーズへ移行

特に影響が大きいのは、以下の分野です。

  • 金融機関(KYC・本人確認)
  • 医療機関(患者認証・医療データ)
  • 公共サービス(行政手続き)
  • トラストサービスプロバイダー(電子署名・証明書)

これらの業界では、既存の認証基盤をeIDAS 2.0前提に適合させるためのシステム改修、運用見直し、監査対応が不可避となります。


企業が取るべき具体的ステップ

― 対象は「EU市場と関わる企業」

以下は、EU市場向けに事業を行っている、または今後展開を予定している企業が検討すべき実務ステップです。

■ 2024年〜2025年前半|制度の「確定フェーズ」

EU側の動き

EUDIW(EUデジタルIDウォレット)の全体アーキテクチャと運用モデルが確定

OpenID4VP / OpenID4VCI など提示・発行プロトコルの標準仕様が収束

各国政府・金融・行政でPoCと移行検証が本格化

この時期に企業が取るべきアクション

経営・事業サイド

・自社サービスがEU居住者向けか

・EU企業と取引しているか

・本人確認・電子署名・認証が事業の中核かを整理し、eIDAS 2.0の影響範囲を特定

情シス・ITサイド

・現在の認証方式がID/Pass、SMS OTP、単純eKYCで止まっていないかを棚卸し

・OAuth / OpenID Connect / FAPI 等の基盤の再評価

法務・セキュリティ

・越境データ、本人確認、署名に関する規制対応の洗い出し

この段階で「EUとどう関係しているか」を特定できていない企業は、すでに出遅れています。

■ 2025年後半|各国で「実装準備フェーズ」へ

EU側の動き

・各国政府がEUDIWの提供主体を正式指定

・銀行・行政・医療で「EUDIW前提の本人確認フロー」検証が現場レベルで開始

・調達・RFPに「eIDAS 2.0準拠」が条件として入り始める

この時期に企業が取るべきアクション

経営・事業サイド

EU向けビジネスで「eIDAS 2.0非対応=取引停止リスク」が現実の経営課題として浮上

情シス・エンジニアリング

EUDIW連携や今後の証明提示・検証を見据えた認証基盤の設計見直し・更改計画の策定

法務・コンプライアンス

eIDAS 2.0適合性が今後の契約条件・調達条件に入る前提での対応整理

この段階で未対応だと起きる現実

・EU向け取引で「本人確認方式が非対応」として提携不可

・電子契約が「eIDAS非適合」として法務NG

・金融API連携が銀行側のEUDIW前提基盤と不整合

■ 2026年|EUDIWが一般提供開始(実運用元年)

EU側の動き

・EU市民にEUDIWが正式配布

・口座開設、ローン、電子契約、行政手続きがEUDIW前提に切替

・大手SaaS・プラットフォームがEUDIWログインや証明提示に順次対応

この時期に企業が直面する現実

・未対応の場合、EU向け新規ビジネスが技術的に接続不可

・既存顧客との更新対応だけでリソースが枯渇

■ 2027年以降|「非対応=市場退出」フェーズ

EU側の状況

・標準は完全にEUDIW前提へ移行

・未対応の認証基盤は例外・暫定扱いに格下げ

企業の明暗

対応済企業
→ 越境取引が低コスト・自動化・高速化

未対応企業
特例審査・追加KYC・手作業対応が常態化

結果として、競争力は構造的に失われます。

■ 全体を通じて企業に共通して求められる実務対応

経営
eIDAS 2.0を「規制」ではなく「市場参入条件」として認識

情シス・IT
EUDIW・将来の証明提示を前提とした認証基盤の再設計

セキュリティ・プライバシー

・最小限開示

・利用履歴の可視化

・プライバシーバイデザインを前提とした設計

法務・コンプライアンス
契約・取引条件にeIDAS 2.0が組み込まれる前提での先回り対応

まとめ

― eIDAS 2.0は「EUの制度」だが、日本企業にとっても戦略課題になり得る

eIDAS 2.0は日本国内の全企業に義務付けられる制度ではありません。しかし、EUと取引を行う日本企業にとっては、事実上無視できない国際ルールになりつつあるのが現実です。

その一方で、この制度は単なる規制対応にとどまらず、

  • 本人確認コストの削減
  • 越境ビジネスの円滑化
  • デジタル証明を前提とした新規サービスの創出

といった ビジネス機会にもつながる側面を持っています。

eIDAS 2.0への対応は、「やらされる規制対応」ではなく、EU市場を見据えた中長期戦略の一部として位置付けていくことが重要だと言えるでしょう。