Facebook 子犬販売ポリシーの明確化

ニュース原文:https://www.petscare.com/news/post/facebook-puppy-sales-policy

― 米Metaの新基準が問う「オンライン動物取引の信頼性」

米国のテック企業であるMeta(旧Facebook)の監督機関であるMeta監督委員会(Meta Oversight Board)が、Facebook上における子犬販売ポリシーの解釈と運用について重要な判断を下しました。この決定は、米国を中心としたグローバル市場におけるオンライン動物取引の安全性と信頼性を高めるものであり、詐欺被害に悩まされてきた消費者と、正規ブリーダー双方に大きな影響を与える内容となっています。

本記事では、この判断がどこの国のルールなのか、どのような背景で生まれたのか、そして日本ではどのような立ち位置になるのかを整理しながら解説します。


Meta監督委員会とは何か

Meta監督委員会とは、FacebookやInstagramなどを運営するMeta社において、投稿削除やアカウント停止などに関する最終判断を独立して下す第三者機関です。政府やMeta社そのものから独立した立場で、表現の自由と安全性のバランスを監督する役割を担っています。

今回の判断は、この監督委員会が「Facebook上での子犬販売をどのように扱うべきか」というポリシー解釈について、明確な基準を示したものです。


今回の判断の核心

― 「個人間販売は原則禁止、正規事業者のみ許可」

今回の判断で最も重要なポイントは、次の点に集約されます。

Facebookでは、原則として個人間での子犬の売買は許可されません。一方で、事業実態が確認できる正規のブリーダーや販売業者に限り、商取引としての掲載が認められます。

この「正規事業者かどうか」を判断する材料として用いられるのが、verifiable business credentials(確認可能な事業資格情報)や、実在する事業所(physical location)の有無です。これらは、事業者登録、許認可、営業実態などについて、第三者による客観的な確認が可能な状態にあるかどうかを判断するための運用上の基準と位置付けられます。

つまりMetaは、誰でも簡単に子犬を販売できる場から、身元や事業実態が明確な事業者のみが参入できる場へと、運用方針を大きく転換したことになります。

なぜここまで厳格化されたのか

― 米国を中心に「子犬販売詐欺」が社会問題化

この判断の背景には、米国を中心に深刻化してきた子犬販売詐欺の存在があります。

代表的な手口としては、実在しない子犬の写真を掲載し、事前に代金のみを振り込ませた後に連絡が途絶えるケースや、写真とまったく異なる病気の動物を送りつけるケースなどが報告されています。

SNSは拡散力が高く、詐欺業者にとっては低コストかつ高効率な詐欺インフラとなってしまっていたのが実情です。今回のMetaの判断は、消費者保護、動物福祉の確保、そして犯罪への利用防止という三つの目的を同時に達成しようとするものです。

正規ブリーダーはどうすればFacebookを使えるのか

― Metaが実際に確認している「4つの具体要件」

正規のブリーダーや販売業者がFacebook上で子犬の販売を行うためには、単に「きちんとやっている」と主張するだけでは不十分です。Metaは、その事業者が“実在する正規の事業者かどうか”を、複数の具体的な情報によって確認する運用を採っています。

実務上、少なくとも次のような情報が確認対象になります。

1つ目は、事業者としての正式な登録情報です。
法人であれば会社名、個人事業であれば事業者名など、事業として実在していることが第三者から確認できる情報が求められます。

2つ目は、実店舗や犬舎など、事業用の物理的な所在地の存在です。
単なるSNSアカウントではなく、「実際に動物を管理・飼育している場所が存在するかどうか」が重視されます。

3つ目は、連絡先や営業実態が確認できる情報の公開です。
電話番号、メールアドレス、営業時間、過去の活動履歴など、継続的に事業として運営されている痕跡が確認できるかどうかが判断材料になります。

4つ目は、業種に応じた許認可や登録の有無です。
日本であれば、動物取扱業登録番号の明示がこれに該当します。これは、「単なる個人ではなく、行政上も事業者として位置付けられているか」を確認するための重要な要素です。

これらの情報を総合的に確認することで、Metaは
「真面目に事業としてブリーディングを行っている正規事業者」と、「詐欺や転売目的の個人」を実務上ふるいにかけています。

これはどこの国の話なのか

― 原則は「米国主導のグローバル運用ルール」

今回の判断は、米国企業であるMetaと、その監督機関であるMeta監督委員会によるものであり、法制度としては米国主導のグローバル運用ルールに位置付けられます。

これは日本の法律ではなく、日本の動物愛護管理法を直接変更するものでもありません。しかし、Facebookというグローバルプラットフォームの運用ルールとして、日本を含む全世界に適用される可能性が高い点には注意が必要です。

日本ではどういう立ち位置になるのか

― 「動物取扱業登録」が実質的な参加条件に

日本では、子犬の販売について、すでに次のような制度的規制が設けられています。

  • 動物取扱業登録
  • 動物愛護管理法に基づく規制
  • 対面による重要事項説明の義務

このため、日本の正規ブリーダーがFacebookを利用して販売を行う場合には、少なくとも動物取扱業登録番号の明示、実店舗や犬舎の所在地の公開、事業としての継続的な運営実績などを可視化することが、実務上の前提条件になります。
加えて、健康診断書やワクチン接種記録などの提示は、法的義務ではありませんが、購入者からの信頼性を高めるための実務上の重要な要素と位置付けられます。

一方で、個人が副業感覚で子犬を販売するケースや、身元や繁殖環境が不明な販売形態については、現行の日本法およびMetaの運用方針の双方から見ても、今後さらに排除されていく流れにあるといえます。

まとめ

― Metaの判断が示した現在地と、子犬取引におけるVC活用のこれから

今回のMeta監督委員会の判断は、単なるプラットフォームのルール調整にとどまるものではありません。動物取引における責任の所在を明確にし、詐欺や劣悪な繁殖環境の温床となってきた取引形態を抑制し、正規事業者が適切に評価される環境を整えるという意味で、オンラインペット取引の健全化に向けた重要な転換点といえます。

これは米国発のルールではありますが、日本のペット業界においても無関係とはいえません。ブリーダー、販売業者、そして購入者は、SNS上での動物売買を取り巻くルールと環境が変化したことを前提に行動していく時代に入ったといえるでしょう。

一方、現在のMetaにおける子犬販売の正当性確認は、書類の提出や店舗の実在確認など、人の目によるチェックを前提とした運用によって担保されています。この方法は詐欺対策として一定の効果を発揮しているものの、確認に手間や時間がかかる、審査が属人化しやすい、なりすましを完全には防ぎきれないといった課題も残されています。

こうした課題に対して、将来的には、ブリーダー登録、動物取扱業登録、ワクチン接種履歴、健康証明などを「デジタルで検証できる証明書」として一元的に扱える仕組みが導入される可能性も考えられます。いわゆるVerifiable Credentials(VC)と呼ばれる技術を活用すれば、販売者の信頼性や動物の履歴を、誰でも簡単かつ正確に確認できる環境の実現が期待されます。

現時点でMetaがこの技術を導入している事実はありませんが、今回の判断が示したように「事業者の正当性をいかに担保するか」が本質的な論点であり続ける以上、VCは今後のペット取引における透明性と安全性を高める有力な選択肢の一つとして、将来的に広がっていく可能性は十分にあるといえるでしょう。